2022.9.26

研究開発事例

日舶工の発電機の異常検知システム開発プロジェクト

予防保全アプリケーションの設計・開発

 

本プロジェクト概要

船舶の安全性を向上させる上で配電系統の状態監視は重要であるが、現状の配電系統の監視では最低限の警報監視しか実施していない場合が多く、無人運航船の実現を想定した常時監視システムの構築は困難である。そこで本開発では、配電系統の発停制御ユニット等の各制御機器でのみ使用されていた情報を収集するなどIoTを活用し、情報の蓄積・解析できる状態監視アプリケーションの開発を行った。
さらに、配電系統のトラブルは、突発的に顕在化するケースがあり、現状の船陸通信の通信間隔、時間でこれを事前に陸上で察知することは難しい。このため、機械学習技術、シミュレーション技術の応用により、陸上で船内の状態を推測する予防保全アプリケーションを開発する。こうした発想は、従来の船舶支援アプリケーションにはない画期的な取り組みである。

設計

2020年度に開発した状態監視アプリケーションにおいて、フローチャートによるトラブルシューティングを自動化する「トラブルシューティング自動化機能」を検討・設計した。各トラブルに対応する発生事象と確認すべきデータ及び検知する異常との関係をフローチャートの形で整理を行った。更に船内で収集されたデータに機械学習の手法を利用して得た理論値と実測値の差異から異常検知のトリガ設定を自動化する「異常検知トリガ設定自動化機能」を検討・設計した。

図1:異常検知トリガ自動化機能の概念図

複数の機械学習手法を検討した結果、NGboost による区間推定を採用した。

図2:機械学習手法の検討

これにより、人が異常と認識していた事象だけでなく、人が異常と認識していない事象も把握することが可能になった。これらの機能を状態監視アプリケーションに追加することで、機器の予防保全の支援を行うアプリケーションを設計した。

開発

トラブルシューティング自動化機能と異常検知トリガ設定自動化機能を、Python を用いて実装した。また、実装したこれらの機能を状態監視アプリケーションで使用できるようにするため IoT データサーバーへの組み込みを実施した。

実績

配電システムの IoT 化による状態監視アプリケーションの開発によって、データを船上サーバー標準規格で収集することにより、配電系統のモニタリング技術を高度化することができた。
その結果、これまであまり重要視していなかった情報も入手可能となりトラブル発生時の原因推測が短期間で行うことが可能となった。船舶の安全性を向上させる一歩であり、来年度以降に開発する予防保全アプリケーション、電気系統のモデル化に生かしていく。

そして開発した状態監視アプリケーションにおいてフローチャートによるトラブルシューティングを自動化する「トラブルシューティング自動化機能」を検討・設計した。
更に船内で収集されたデータに NGboost という機械学習の手法を利用することで、異常検知のトリガ設定を自動化する「異常検知トリガ設定自動化機能」を検討・設計した。
これにより、人が異常と認識していた事象だけでなく、人が異常と認識していない事象も把握することが可能になった。これらの機能を状態監視アプリケーションに追加することで、機器の予防保全の支援を行うアプリケーションを開発した。

成果

2020年に船上サーバー標準規格(ISO19847/ISO19848)に準拠した船上、陸上双方のデータ集積設備としてデータ出力ソフトウェアを開発した。 従来、システム構築を行うにあたって配電システムとデータロガーとの仕様すり合わせ、データロガーでの出力設定等に 8 時間程度の工数が必要であった。本ソフトウェアの開発により、特殊な標準化していないデータ項目があった場合は割り付ける作業が 4 時間程度発生する可能性が残るが、システム構築に係る工数を約 50%削減することが可能となり、目標にしていた 30%削減を大きく超える結果となった。
状態監視アプリケーションの開発により、データ出力ソフトウェア及び状態監視ア プリケーションを介して 10 分以内に不具合データを見ることが出来るようになり半日程度で原因を解析することが可能となった。トラブル発生時、アフターサービス部 門では船員からの聞き取り、データ収集、解析を実施し原因推測をするのに 2 日弱か かっていた。結果、原因推測まで 2 日かかっていたのが半日で十分となりアフターサ ービス員の補修作業工数を約 75%削減できるスキームを確立することができた。目標 にしていた 30%削減を二倍以上超える結果となった。

2021年には船内で収集されたデータを基に異常検知とトラブルシューティングが自動化された機能を持ち合わせた機器の予防保全の支援を行うアプリケーションを開発した。実施者のこれまでのトラブルシューティングを参照にして、本船データに 1,000 件の擬似的な異常の値を追加することで機能検証を実施した。これより予防保全アプリケーションは追加した全ての異常を検知でき、検知率は 100%となり、目標の 50%を達成することができた。急な値の変化についてはそれが起きたタイミングで検知できており、緩やかな値の変化についてはそれの起こり始めで検知できていたことから、検知タイミングについても問題ないことが確認できた。また、既存の状態監視アプリケーションで手動設定されたトリガで検知できない異常、トラブルの予兆も検知できたことも確認できた。

図3:異常検知の一例

今後、実施者が予防保全アプリケーションから出力されるログデータを引き続き分析し、船舶の電気系統に詳しいエンジニアにその結果を共有、そこで得られたフィードバックを基に改善、というサイクルを繰り返すことで機械学習のモデルを精緻化していく予定である。

図4:機械学習モデルの改善サイクル

本プロジェクトは公益財団法人日本財団のご支援を頂きました。

引用:

配電システムのIoT化による状態監視及び予防保全アプリケーションの技術開発 | 事業一覧 | 日本財団 図書館 (zaidan.info)
http://nippon.zaidan.info/jigyo/2021/0000096151/jigyo_info.html

2021年度_JSMEA_配電システムのIoT化による状態監視及び予防保全アプリケーションの技術開発成果報告書/事業成果物 | CANPAN
https://fields.canpan.info/report/detail/26472