2022.9.26

インタビュー

【TDL Member Interview2】

海事業界にデジタルの力で新たな価値を共創したい

BEMAC株式会社 東京データラボ室長 
中内 大介

 

データサイエンスに特化したR&D組織「東京データラボ」(以下TDL)で室長としてMission推進に向けた戦略策定とメンバーが活躍できる環境づくりを担う中内。省庁から海の業界にシフトした理由や、現在の取り組み、TDLがミッション実現のためにやるべきこと、そこに必要な技術力・人材について語ってもらった。

海事産業のポテンシャルを実感

BEMAC入社前はどのような仕事に携わっていたのでしょうか?

政府で知的財産やデジタル分野の産業政策に携わってきました。
大学卒業後に特許庁に入庁し、企業で研究開発された技術が特許になるかの審査をしていました。ITや半導体の分野が担当で、Googleの検索エンジンの基本技術やSONYのイメージセンサの審査など、各社の先端技術に触れながら、権利設定を通じて企業の支援ができるのは楽しかったです。経済産業省では、IT産業の競争環境の整備に従事し、ネットビジネスのルール整備、電子書籍の税制改正などに取組みました。

2014年からの2年間、アメリカ留学の機会をいただき、ワシントン大学ロースクールでLL.M.(法学修士)を取得しました。帰国後、第4次産業革命に関する技術動向を調査し、各政策へ反映する仕事に取り組みました。2018年からは、内閣府で、「知的財産戦略ビジョン」の推進や「知的財産推進計画」の策定を担当すると共に、デザイン思考を取り入れた政策立案や民間企業の事業開発支援に取組んでいました。最後の2年間は地元の今治市役所に出向し、市内産業の振興を担当していました。

どうして国家公務員を志望されたのですか?

大学進学の際は、いつかは父と一緒に仕事ができればという思いがあり、工学部を選びましたが、将来を考える中で、父のような中小企業で活躍している方たちの「縁の下の力持ち」になりたいと思うようになって公務員を目指しました。

BEMACに入社した経緯を教えてください。

入社の直接的なきっかけは、2020年4月の今治市役所への出向でした。市役所では商工振興課という市内の産業全般を行政としてサポートする部署にいました。多くの企業と接点ができる中で、特に「いい会社だな」と感じていたのがBEMACでした。私は今治出身で、父が船の設計をしていることもあり、海事産業の厳しい面を身近に感じながら育ってきましたが、市役所での仕事を通じて、海事産業の新たな魅力を知り、「すごく可能性があって面白い業界」との印象を持ちました。

具体的にどのような点に可能性を感じたのでしょうか?

一つは、シンプルにマーケットが堅調に拡大していく分野だということです。海上輸送の世界は、世界の人口が増え、GDPが増えていけば、欲しくなるモノが増えるし、物流量が増えてきます。国連から2050年までは人口が増え続けるとの統計も出ています。海上輸送が果たす重要性は益々大きくなります。

二つ目は、海事産業がデジタル技術によるイノベーションの余地が多く残されている点です。前職でデジタルの政策を見ていた中で、海の分野は固有の課題が多く、様々な取組みの余地がありそうだなと感じていました。自分も何か貢献できるところがあるのではという気持ちが生まれ、そして何より地元に貢献したいという気持ちが市役所での2年間でとても強くなっていきました。海の分野で地元企業のBEMAC、しかも、デジタルは得意領域なので、すべてがマッチした気がしました。

Mission推進に向けた戦略策定とメンバーが活躍できる環境づくり

今、取り組んでいる仕事について教えてください。

デジタル技術による海事産業への価値創出を念頭に、TDLがどうあるべきかについて考え、TDLの戦略策定や研究開発の体制づくりを進めています。特に注力していきたいことがTDLのメンバーにとって働きやすい、活躍しやすい、やりたいことができる環境を整えていくことです。それが、自分の最も重要なミッションだと思っています。環境を整え、向かうべき方向性について考え、チームの価値創出を支えることが私のやるべきことだと考えています。

前職での経験が活かせる部分も多いのでしょうか?

海のことについてはまだまだ勉強中ですが、これまでのキャリアで培った知的財産やデジタル領域に関連するさまざまな知見やネットワークが、海事産業の当事者として価値創出に役立てていけるのではないかと考えています。前職では課題ベース、ユーザー視点で戦略を立て、それを実行していくことずっとやってきていたので、そうしたフレームワークも活かしていきたいです。

「決して止まらない船」を実現するというビジョンについて詳しく教えてください。

これはどんな状況においても目的地までしっかり安全に海上輸送の使命を果たす、そのためには決して止まらない船を実現させなければならないという考えです。例えば、日本だと輸出入の99%は海上輸送が担っていますが、日々の生活を支える上で海上物流は欠かせないインフラであり、どんなときにもしっかり海上輸送を果たすことが人々の暮らしや日本の産業を支えています。

このビジョンに向けてBEMACではMaSSAという開発コンセプトを掲げ、船舶データを活用した運航支援システム“MaSSA-One”を提供しています。MaSSAは“The Maintenance System for Soundness Sailing Ability”の頭文字を取ったもので「いかなる状況下でも健全な船舶の航行能力を維持」することを意味します。MaSSA-Oneを進めるためには、データサイエンスの力がさらに重要になります。そこをTDLが担い、日本の海事産業や世界の海上物流への貢献に繋げていくことは、意義のあるミッションだと思っています。

船舶業界は先駆者になれるチャンスがたくさんある

ビジョン、ミッションの実現のためにTDLがやるべきことをどのように考えていますか?

私自身が考えるTDLの役割は、データ分析やAI開発を通じてBEMACのソリューションの力を高めることだと考えています。そのための体制作りや、課題を突破していける実力を身につけるのが大事だと思っています。時間はかかると思いますが、ステイクホルダーからの信頼を着実に積み重ねていきたいです。

データ利活用推進のためには、どのような技術力を磨くべきだと考えていますか?

データサイエンティスト、データアナリスト、システムエンジニアなどのエンジニアとしての技術力がまずは必要です。それに加え、ビジネス上の課題を捉え、そのソリューションとしてAIが適切か、どういったAI開発を進めれば良いかの戦略を立てるスキルも必要です。こうした人材を獲得するために、通年で採用を実施するとともに、社内でデータサイエンティストを育成するためのリスキリングプログラムも導入しています。

AI技術をどのように活用していくのでしょうか?

AI自体はすごく有望なツールです。ただ、それが活きるどうかは課題に対するフィット感だと思っています。今は、電気系の異常検知に機械学習を使ったAIのロジックモデルを開発していますが、それはまだまだ実験的な段階です。本当に価値あるものとして使っていくために、もっと実ビジネス上の課題を特定し、それにAIがフィットするかを考えていかないといけません。

TDLとしてどのような技術者を求めていますか?

データ利活用のプラットフォームが整ってきたので、これから船舶データがどんどん蓄積されていきます。そこのクレンジングを含めたデータの前処理、有効性の検証を担う技術者は必要だと思っています。また、データを活かしたモデル開発も行いますので、データ解析してアプリケーションを開発する人材、さらにシステム全体を作る技術者も必要になきます。TDLはR&D機関ですが、研究開発の力だけではなく、実装をやり抜く体制も強化したいと思っています。

業界によってデジタルの進み具合は異なりますが、船舶機関系の分野においてBEMACは業界をリードしています。海事分野では、手付かずの良識な課題が多く残されていて、デジタル技術に関する研究開発にもブルーオーシャンがまだまだあります。異業種の技術者の方々であっても、ゼロからお客様へヒアリングしながら課題を見つけて、価値を生み出していくことは、ほかの業界よりチャンスが多いと思いますし、TDLにはその環境が揃っています。人類のインフラである世界の海上輸送を支えるために、「決して止まらない船」の実現に向け、一緒に取り組んでいける仲間を探しています。