2022.10.3

インタビュー

【TDL Member Interview1】

デジタル化推進による海事産業の課題解決を目指して

BEMAC株式会社 執行役員 東京支社長 
寺田 秀行

 

データサイエンス特化した研究開発機関「東京データラボ」(以下TDL)の担当役員として船舶のデジタル化を促進しながらBEMACの東京支社長、デジタル推進室長、営業の4つの立場で会社の舵取りを担う寺田。船舶業界において船の総合メーカー「BEMAC」は何を目指すのか。業界が抱える課題、TDLが果たすべき役割、デジタル化が船舶業界にもたらす未来について語ってもらった。

船舶業界の「電気」の困り事を総合的にフォローできる会社

船用メーカーから転職されたそうですが、BEMACを選んだ理由を教えてください。

前職では舶用商材の輸出に携わり、東南アジア、北米などの営業・マーケティング、新商品開発の営業を担当しました。その後、北米の子会社で5年間、購買部長として輸入にも関わり、帰国後は衛星通信を使い船のデータを集める仕事も担当しました。前職もBEMACも同じような仕事をしているのですが、大きな違いは「海事産業におけるデジタル化」への向き合い方。BEMACでは社長の強い意志で「絶対に必要なことだから、どんどん前に進めてください」という号令のもとに前を向いていたところが決め手になりました。

BEMACの強みを教えてください。

BEMACは船舶の総合電機メーカーとして、船舶の受配電、制御、監視システムの提供や船舶の電装設計・工事、他社舶用機器の販売とアフターサービスを担っています。弊社の強みは一言で言えば船の電気関連のお困り事はすべてフォローできることです。

ものづくりからサービスまでを提供している会社であり、船の中の機械が壊れたとき、その要因が電気に関わることであればBEMACは他社製品でもサポート出来てしまいます。メーカーの対応の善し悪しを判断するのは船主さんや、船の管理会社さんです。船作りをする造船所さんが船内の電機機器の採用を決めるのですが、船を発注する船主さんが「BEMACを使ってください」という意向を造船所さんに伝えてくださるんです。多くの船主さんの信頼を得て指名していただいているところ、また、造船所さんでも標準的に採用されているところは、強みだと思っています。

BEMACの保守で売りにしているのが1Day Serviceです。何か不具合が起きたときに連絡をしたら、24時間以内には何かしらのアクションがとられているのをポリシーにしています。不具合の連絡を受けたときのアクションが早い、さらに仕事も早い。その積み重ねだと思います。アフターサービスの人たちはすごく頑張っているし、評価いただいています。そこはBEMACの長年の積み重ねだと思っています。

デジタル技術活用は安全な航海実現に欠かせない重要ミッション

デジタル化の推進が必要な理由を教えてください。

船舶事故の75%はヒューマンエラーによる事故と言われています。船は安心安全な航海を実現させるために本当にさまざまなルールに縛られた業務が膨大にあります。ルールの種類と数が多いだけでなく、その作業のほとんどが手作業なんです。
船上では限られた人員で、絶対に失敗できない膨大なタスク処理があり、ルールを厳守しながら多種多様な業務をこなすので、忙しくなりエラーが発生してしまう。そこをデジタルでなんとか解決したいと考えています。業界で抱える問題であると同時に、BEMACとしてどうにか支えていきたいという気持ちがあります。

船員の“なり手”不足も影響しているのでしょうか?

海事産業では船員のなり手不足も深刻になりつつあります。もしデジタル化が進み、過酷な業務環境が解消されれば船員になろうという人も増えると思います。

船の種類によりますが、1隻に20人ぐらい乗っていて、1回乗ると3か月から6か月ぐらい乗りっぱなしです。正直、大変な職場なので、日本人の船員はどんどん減ってきているような状況です。効率化ができて、人が少なくても安全に航海ができるのであれば、業界にとって大きなイノベーションだと思います。世界の物流における海上輸送は相当な割合を占めています。
これからどんどん物流の量が増えていけば、船を増やしていかないといけない。だけど、船員のなり手があまりいない状況では、業務を効率化しし省人化は必要不可欠。そこに貢献していきたいと考えています。船が動かなくなれば、欲しいものが手に入りにくくなったり、物価の上昇は避けられない状況に陥ってしまいますから。

現場の事情に寄り添い、デジタル化の道を進めたい

着目する具体的な課題と解決に向け行いたい開発について教えてください。

まずTDLとして取り組んでいるのはメンテナンスの効率化ですが、個人的には業務の効率化にTDLの知見が使えるのではと考えています。管理会社は船に乗る機会がないので、実際の船上業務に具体的にどのような煩雑な作業があるのか分かりません。

「困っている」状態は理解できても、何に困っているのか詳細までは理解できない。ヒアリングしても本当の課題や解決策が見つからないわけです。業務効率化が得意な人が実際の現場に張り付いて、どんな仕事をしているのかを目にすれば効率化への道は開けると思っていますが、物理的にさまざまな事情がありそのような機会はなかなかありません。
加えて船舶で使う業務アプリケーションはスマホのアプリのように簡単に使いこなせるものではなく、使い方が難しくて結局アナログ管理に戻ってしまうことも珍しくありません。使いこなせたら便利だろうけれど、従来のやり方で対応していますというのが現状です。何でもかんでもデジタル化ではなく、いい塩梅で効率よく推進できたらという思いがあります。