2022.10.10

インタビュー

【TDL Member Interview3】

ポスドク→産業界、データサイエンティストへ転身

BEMAC株式会社 東京データラボ 
山本 亮

 

データサイエンス特化した研究開発機関「東京データラボ」(以下TDL)にてデータサイエンティストとしてモノづくりに携わる山本。大学では物理を専攻、大学院で宇宙物理学の研究室にて研究を続けていた山本が、ビジネス未経験という立場からモノづくりビジネスの世界へ飛び込んだ経緯、研究者としての経験があるからこそ見えてきたもの、データスペシャリストの立場から見たモノづくりに必要なことを聞いた。

ビジネス未経験でもチャレンジできた理由

BEMAC入社までの経緯を教えてください。

大学で物理を学び、大学院で宇宙物理学の研究室に入りました。人工衛星を使うことと作ることに興味があり、分析や実験を重ね、博士号取得後はポスドクとして数年研究を続けていました。アカデミックの世界で研究者として自分が興味のあることを追及していくことは、それはそれで面白いのですが、果たしてそれがすぐに誰かの役に立つかはまた別の話になってきます。技術者として何か人の役に立つことに取り組んでみたいと思うようになり、研究を一生続けるか、ビジネスにシフトするのかを考えたタイミングで就職活動をし、縁あって入社に至りました。

宇宙分野の研究ではどのような点に面白さを感じていたのでしょうか。

宇宙に限らず、物理全般当てはまることなのですが、分からないことがわかるようになること、つまり単純な好奇心です。子供のころから「何で?」と考えるのが好きな性格で、物事に対して「なんでこうなんだろう」「なんでそれが成り立っているんだろう」からはじまり「宇宙がどうしてできているんだろう」に行きつき、物理を好きになっていきました。

ビジネス未経験、さらに宇宙物理学から船舶業界への転身に不安はなかったのでしょうか?

技術者として「データ分析をしてみたい」という思いはありましたが、私自身にはずっとアカデミックの業界にいてビジネス経験がなく、コーディングも自分の実験でのデータ分析や可視化のために触っていた程度でした。ビジネス向けの本格的なシステムを作ったこともない私が採用された意味、期待のようなものがあるのではと前向きに捉えていました。

現在はどのような仕事を担当しているのでしょうか。

初期の段階では、Pythonのコーディングを中心とした技術学習をさせてもらいました。異常検知システムの手法などを実装するためのコーディングに触れていました。

途中から、ラボメンバーの技術者との共同開発にも携わるようになり、プロジェクト過程で出てきたデータを分析集計し、傾向を見つけ、改良していくという誤検知改善に取り組むなど、エンジニアというよりもアナリスト寄りの仕事がメインになっています。データサイエンティストは、ビジネスやエンジニアリングについて考えるものですが、私の場合はアナリスト寄りだと感じています。

便利なツールが豊富!課題解決を加速させてくれる

元ポスドクとして現在の分野に感じている面白さを教えてください。

データを取り扱う技術者として「何かしたい」と思ったときに用意されているもの、例えば、仕組み、モジュール、関数といったものがたくさんあるのはとてもありがたいです。宇宙物理学の研究者時代は「何かしたい」と思っても、世の中にないからという理由もあるのですが、自分で作らなければいけないものが多かったので。アイデアを持ったときから実現に至るまでのスピードがどんどん速くなるところに楽しさを感じています。

どのように技術を吸収しているのですか?

基本、ウェブと検索、そして本がベースです。まず本を読み、本の中から単語をピックアップし検索にかけます。世の中には技術記事も多く、役に立つ情報に溢れています。モジュールの公式ドキュメントを見ることもあります。検索ベースで必要なことを必要な量だけムダなく学んでいきました。そして機械学習分野のエンジニアの勉強会や、カンファレンスなどに参加し学んでいきました。すぐ使えるかどうかは分からなくても、面白い技術に出会う機会が格段に増えました。そういった技術を磨く機会があること自体を知らずにこの業界に入った私にとっては、「面白そうなことがまだまだたくさん転がっている」とワクワクしています。

データサイエンスをやるうえで東京データラボの強みは何ですか?

モノづくりが出来る技術者がすぐそばにいることが一番大きいと思っています。船の総合電機メーカーとして事業展開しているBEMACのモノづくりノウハウがデータ活用ビジネスでの価値創出に欠かせないと思っています。

データから分かること、そこに意味を持たせるのは人間の経験や知見によるところが大きいと考えています。例えば、グラフでは統計量、平均値、比較をすることはできます。それは中身を理解しなくても説明はできます。ですが、増えたことは果たしていいのか悪いのかという議論は実体を知らないとできません。経験豊富な技術者と連携し、会社というチームの力で課題をクリアしていけると思います。

何かを便利にしてみようというモチベーションが重要

今後の目標を教えてください。

これまでプロジェクトを立てることも、計画書を書くことも、あるいはまとめることも私1人ではなくラボメンバーのサポートがあったからこそ成し遂げられました。今後何か自身の発案で顧客の課題解決までワンストップで取り組めるような技術者を目指したいなと思います。

研究者のときと現在ではモチベーションのあり方が違うと感じています。研究者の時は好奇心のままに突き進んでいて、それが役に立つかどうかを考えるのは二の次でしたから。課題の見方次第かもしれませんが、今は、誰かが面倒くさいと思っている課題を解決しようという発想に面白さを感じています。

海事産業におけるデータ活用の必要性をどのように考えていますか?

業界や業種に関係なく、これからはデータ分析を扱う部署の需要がどんどん伸びると思います。いろいろなことが記憶ではなくて記録できるようになった現在、例えば、スマホを1台持って歩くだけでデータはたくさん溜まっていく状況になっています。そして、多様なデータを活かし価値に変えるための職の可能性は広がり続けていると思います。そのような背景でBEMAC自体がデータを取り扱うラボを持っていることはすごく価値があるし、もっと機能することでいろんな課題を解決できる部門になれたらいいなと思っています。

海事のデータの特徴についても教えてください。

分析しやすいきれいなデータが少ないイメージがあります。自動判定してデータを作っている部分に関しても、その会社のロジックが介在してきたり、それが本当に正しいか確かめるときに、船の航海士さんが記録している手書きのデータがどうしても必要になったりもします。

入手すること自体が大変なデータがあったり、質が均一でないデータを整えるだけで一苦労。また海の上では通信状況にもばらつきがあるので、本当は1秒に1回記録しているものを10秒に1回にしましょうとか、1分に1回にしましょうという話になることもあり、あるいは実際に船に行ってUSBを挿してデータを抜き取るようなことをする必要が出てきます。衛星による通信環境も進化してきているので今後は変わるかもしれませんが、取得が大変だということが海事データの大きな特徴かもしれません。

TDLではどんな技術を持った人材が必要なのでしょうか?

一番大事なのは基礎分析ができることだと思います。何か良さそうな分析結果が出ても、欠損の割合に着目しちゃんと調べなければいけないという場面に何度も遭遇しました。いろんなアルゴリズムを知っていて、実装の経験があることは武器になると思いますが、基礎分析がきちんとできることが一番大事だと、自分の経験から実感しています。