2023.6.7

活動事例

社内データ利活用プロジェクト

社内データ利活用プロジェクト:半製品/部品の突合アプリの開発

 

はじめに

BEMAC東京データラボ(以下、データラボ)では、デジタル技術をコアとした多様なテクノロジーを用いて、海事産業の課題解決に日々取り組んでいます。今回は、データサイエンス技術を活用し、社内業務改善を目的とした「データ利活用プロジェクト」に挑戦しました。このプロジェクトの立ち上げからヒアリングによる課題抽出、アプリ開発プロセスにおけるユーザーテストや改善点の洗い出し、デプロイまでの一連の流れをご紹介します。

プロジェクトの立ち上げと課題発見

今回のプロジェクトでは、社内業務の効率化を実現できる、半製品/部品の突合アプリを開発しました。本プロジェクトを立ち上げたきっかけは、自分たちの技術(データ分析、AI/機械学習、アプリ開発等々)を、海事産業の課題のみならず、社内の隠れた課題解決ができないかと考えたことです。この取り組みを進めるために、まずは社内にどのような潜在的な業務課題があるのかを把握するべく、社内業務を統括する部署を対象にヒアリングを実施しました。ヒアリングでは、単に課題感を聞くのではなく、これまで私たちが日々の業務で感じていた課題とその解決アイデアを資料にし、それをもとに議論を進めていきました。ヒアリングを通して見つけた課題の中から、最も業務にインパクトが大きく、実装可能なものにフォーカスし、改善策を実施することにしました。その課題として抽出されたのが、「各部門を横断した半製品と部品の照合の難しさ」でした。

取り組んだ社内課題

当社では、配電制御・パワーマネージメント・計装・ネットワークなど、船舶の電気機器の製造を行っており、それぞれに電子部品を使用しています。今回の取り組みでは、これら電子機器の部品構成が把握しにくいという問題を解決するため、既存データを活用し半製品/部品の突合(とつごう)を行う環境の構築に挑戦しました。
各製品で使われる電子部品は、製品と一対一で結びついているわけではなく、製品Aと製品Bで同じ部品が使用されることもあります。そのため、各製品で共通して使われる部品群をユニットとして作り、それを組み合わせて製品を作るほうが製造現場では効率的です。電子工作などで基盤に電子部品がたくさんついた状態のものを見たことがある方もいらっしゃると思いますが、イメージとしては、この電子部品がたくさんついた基盤を「半製品」と呼び、「半製品」や「部品」が組み合わさってできたものが、実際の電気機器の装置になります。もちろん、実際はもっと複雑で、多くの半製品はいくつかの半製品と部品の組み合わせでできており、その半製品はさらに別の半製品と部品からできている、という構造になっています(図1)。こうした複雑な構造を管理するために、BOM(Bill Of Materials)と呼ばれる「部品表」を使用しています。

図1:半製品と部品の構成のイメージ図

当社では、半製品の設計から部品の調達、製造までの各部門と、製品の設計、製造、修理などの各部門で、それぞれの作業が細かく分担されており、先ほどのBOMは部門ごとに使い方も求める情報も異なります。たとえば、製造部門では半製品を組み立てるための部品在庫を知りたかったり、保守部門では修理のために客先にどの部品を持っていくべきかを知りたかったりなどと、使いたい情報はさまざまです。BOMは社内システムに登録されているのでデータをたどれば確認は可能ですが、製品の部品構成を知っている人と知らない人では部品在庫確認などの作業時間に大きな違いが生まれます。また、把握している人に問い合わせることで、時間的、人的コストがかかり、仕事の属人化にもつながります。製造業を中心とした企業では、こうした課題が蓄積し業務の大きな障害となることもよくあります。

現場ニーズを洗い出すためのMVP開発

今回のプロジェクトでは、ユーザーフィードバックを基に改善と拡張を行うMVP開発(※1)を採用しています。ユーザーのニーズを反映したアプリ開発を素早く実施するためにMVP開発が有効となります。
課題を解決し、「半製品と部品の突合を誰でも簡単に行えるようにする」ために、製品を設計、製造、調達する各部署のメンバーに、社内アプリとしてどのような機能が欲しいのかヒアリングを実施しました。このニーズを満たす最低限の機能を実装したアプリのMVPを作成し、デモを行って改善点を洗い出すという作業を繰り返していった結果できたのが、「半製品部品突合アプリ」です。開発したアプリでは、半製品/部品のあいまい検索から、検索結果の半製品/部品の「親の半製品の一覧」、「子の半製品/部品の一覧」、「各部品の関係の可視化(図2)」をすることで、簡単に半製品と部品の突合ができるようになりました。
実際に作ったMVPの検索画面を現場の方に見ていただくことで、「部品のメーカーも表示してほしい」「一つの親の半製品だけではなく、親の親、さらにはその製品まで表示してほしい」などの要望を早期につかむことができました。こうしたアプリの開発プロセスでは、現場の要求と開発者との認識のずれが生じることが多いのですが、実際に機能を試せるMVPがあったからこそ認識のギャップを埋めることができ、仮説検証のサイクルを最短で回すことができました。

図2:アプリのデモ画面(半製品名など一部モザイク処理を実施)

現在は、このアプリを現場で実際に活用してもらうため、機能追加はいったん終了し、デプロイを実施中です。社外にデータを持ち出さない形での使用を想定し、個人のPCへの試験導入を予定しています。

今回のプロジェクトを通して

まず、社内の業務改善であってもMVP開発が有効であることが実感できました。最小限の機能に絞って実装し、現場の方にいち早く使っていただくことで、フィードバックをより具体的な形で得ることができました。これにより無駄な機能の開発を最小限に抑え、開発期間や工数を抑えることができたと思います。
またデータサイエンス的な観点でも、アプリによる可視化の経験は役に立つと思いました。データ分析やAI/機械学習の開発でも、結果の可視化は必要な技術の一つです。もちろん、これまでもグラフや表などを使ったレポートを作成していましたが、データサイエンスの知見があまりない方に説明する場面も多く、このような時に簡単なダッシュボードアプリなど、インタラクティブな形で可視化することで、より一層お互いの理解につながることを実感しました。

今後にむけて

データラボではAI/機械学習を用いた研究開発のみならず、様々な海事分野におけるデータ利活用を用いて社会に貢献できる取り組みを行っていきたいと考えています。そのためにも、上記のようなアプリ開発などの周辺技術にも力をいれ、よりよい課題解決策を提案していきます。