2023.12.25

活動事例

神戸大学練習船 海神丸・乗船研修

乗船研修に参加し、現場目線の知識を習得

 

はじめに

BEMAC東京データラボ(以下、「データラボ」)ではAI技術の研究開発やデータ分析などを通じて、海事産業の課題解決に日々取り組んでいます。ステークホルダーに向け価値のあるソリューションを提案するためには、海運業界関係者と同じ土台で議論するための現場目線の基礎知識が不可欠です。そこで今回は、データラボのメンバーが研修として参加した日本舶用工業会(※1)主催の研修プログラム、「神戸大学練習船 海神丸・乗船研修(※2)」についてご紹介します。

開催日程:2023年11月7日、11月8日

国立大学法人 神戸大学練習船 海神丸

乗船研修に参加した目的

日本舶用工業会が主催するこの研修プログラムは、日頃船舶に乗船する機会の少ない会員企業を対象にし、実際に現場で見て学ぶことによって船舶や舶用機器の理解を深めることを目的としています。
データラボとしては、海事産業に関わる様々なステークホルダーを巻き込んだ船舶に乗船しなければ気付けない実課題の発見とソリューションの創出をしていきたいという目的で、基盤となる船舶の基礎知識(船上での航海機器の使われ方や船舶を動かす機関部など)を深く知るために、今回の研修に参加しました。

乗船研修の内容

安全研修や船舶運航の講義、推進プラントの講義、航海当直体験、機関当直体験など、多岐にわたる体験が行われました。
※本記事の船舶に関する情報は、練習船における情報であり、船種の違いなどで運航形態等が一部異なる場合があります。

①安全研修

安全研修では船員が行う避難訓練を体験しました。サイレンが7回鳴ると船の甲板に素早く上がり、救命艇の前に集合しました。船内は階段が急で通路も狭いので、緊急時でも落ち着いて行動することが重要だと教わりました。海難事故が万一起きた場合に備えた訓練を実際に体験し、改めて人命と隣り合わせの現場なのだということが身をもって感じました。

①安全研修(救命艇前)

②操舵体験

操舵体験では、実際に船の操舵を体験しました。海上では目標物がないため、進みたい方位に向けて舵を調整する必要があります。船の操舵は腰の位置より少し下にある小さなハンドルで行いました。指定された210度の方向に進む練習でしたが、計器や画面がたくさんあるためどこを確認すればいいのか把握するだけで精一杯で、気が付くと200度くらいを指していました。波や風の影響もあるので船を直進させるだけでも容易ではありませんが、実際に操作した上での判断の難しさや、操船には船舶運航に関する深い知識や長年の経験が不可欠であることを、とてもゆっくり進む船上で感じることができました。
また、船の現在位置や周囲の状況は電子海図やレーダーではっきりと確認できました。一方で、船内には大量の紙の海図や過去一年分の天体観測結果資料や六分儀があり、技術の発達した現代においても、機器故障や機器自体の正常確認のために航海士が現在位置を手計算して求めることができるよう訓練していることも知りました。

②操舵体験

③機関当直体験

機関当直体験では、稼働中の主機や発電機などを確認しました。機関室内は騒音があり、トランシーバーがないと会話が難しい状況を実際に体験しました。また、制御室では点灯している多数の計器やスイッチなどを確認することができました。
データラボでは「機関室温度」の時系列データを扱うことがありますが、機関室の中は主機や発電機の近くとそれ以外の部分では大きな温度差があり、一言で機関室温度といっても、計測位置で大きな違いが出ることを実感しました。
また、現場にいる機関長や機関士の方からは、発電機に関する細かな知識を伺うことができました。船舶が完成して間もない時期はトラブルが少ないですが、運航しているうちに配線ミスに起因するトラブルが生じることがあり、日々のメンテナンスが不可欠であることや、メンテナンスが必要な部分のボルトは交換時に塗装を剥がすのに手間がかかるため、あえて塗装をしない方針にしているそうです。また、以前に練習船として運航していた深江丸」(1987-2021)では老朽化により、リレー(電磁継電器)の動作不良が頻発していたが、海神丸は2022年3月竣工で比較的新しいため、特に問題は起きていないそうです。
普段の業務では聞くことのできない方々の貴重なお話を聞くことで、現場での老朽化の実態とメンテナンスの重要性もよく理解できたと感じています。

③機関当直体験(機関室内の発電機)

本研修に参加して

今回の研修に参加することで、船舶運航と機関に関する知識を深め、様々なステークホルダーと課題解決をするための基盤となる知識を得られたと実感しました。また、現場でしか得られない課題を吸収したことで、データ活用による船員の行動のサポートや海上での操船の難しさのサポート、センサー配置場所に合わせたデータ活用提案などをデータラボとしてソリューション化していきたいと強く感じました。
今回初めて知ることも多くありましたが、実際の船上で感じる音や熱、揺れといったリアルな体験は、ステークホルダーの抱える課題に寄り添った提案をしていく上での大きなインスピレーションに繋がると思っています。
データラボは今後も積極的に研修に参加し、海事業界の発展に貢献するためにデータ分析の視点から積極的にアプローチしていきます。


(※1)日本舶用工業会:船舶用機器及びその他船舶に関連する工業の進歩発展を図り、我が国経済の発展に寄与することを目的に設立。

(※2)乗船研修 詳細:
https://www.jsmea.or.jp/jp/news/news_20231124/20231124_kaijinmaru_boarding_training_press.pdf