プラントで培った知識を船舶業界へ - AI開発者が語るこれからの船舶AIの可能性

東京データラボ 副室長 
安井威公

 

BEMACに来る前の仕事

30年プラントエンジニアリング会社にいて、地上のプラントを設計し、その後、プラント向けのAIを開発していました。
アンモニアプラントやメタノールプラント、水素プラントに天然ガスプラントなどを設計してきましたが、アンモニアも、メタノールも、世界の会社が多数参入して価格競争になり、日本の会社は撤退してきました。それが今、船舶業界のGHG対策燃料に使われ始め、注目されていることに驚き喜んでいます。

知らなかった!船舶業界は景気の良い業界であった!

他業界にいて、正直な所、海事業界について詳しくなかったのです。
造船業界は、1999年まで日本が長らく世界一でしたが、安価な韓国と中国にシェアを奪われ、順位を落としてきたと聞いていました。
ですが、価格競争で撤退とは大違いでした。日本の船舶業界には一定の底堅さがあり、世界的船舶供給過剰から後進国経済発展などの需要量増減の波を乗り越えています。
造船業世界上位3か国は、圧倒的設備規模という参入障壁と、蓄積技術と海事クラスターの産業集積という強みを持ち、世界の商船建造のシェア95%を独占しています。
日本の船は、顧客ニーズへの柔軟な対応や、品質と性能に強みがあり、燃料消費を抑えて速く航行できる船など、省エネ・高性能船の開発で依然として中国や韓国より高い評価を得ています。リーマンショック金融危機前まで世界的に建造ピークであった時からの更新需要と、コロナ後の物流急回復と新エネ対応需要が重なり、現在世界的造船需要は増加し続けています、また米国造船業復興のための技術協力要請や政府のバックアップもあり、足元からこの先しばらくとても好景気な業界なのです。

そして、海運業界でも人手不足は深刻であるのと同時に、海難事故の大きな部分を占めるヒューマンエラーへの答えとして、DX/AI活用による運航の省人化、無人化の試みが多数行われています。今、我々は非常に面白い時代にいるのだと思います。

BEMACの強み

この会社は船の中の受配電、制御、監視システムを作り、船の電装設計・工事、他社舶用機器の販売とアフターサービスまで、船の電気に関する事を全てカバーできる国内唯一の船舶総合電機メーカーです。積み上げた技術からの迅速なアフターサービスにも定評があり、お客様からの支持をいただいて主力製品の国内市場シェアは50%以上です。

次世代船舶支援ソリューション「MaSSA-One」を開発し、船舶DXプラットフォームを提供して、人手不足や故障、人為的ミスがあっても「止まらない船」を実現しようとしています。

日本の注目すべき会社として、去年TIME誌やNewsweek誌に、相次いで掲載されました。

【引用】
BEMACコーポレートサイト News&Topics
・TIME誌に当社記事が掲載されました:https://www.bemac-jp.com/news/?p=1973
・Newsweek誌に当社記事が掲載されました:https://www.bemac-jp.com/news/?p=1894

これからのAIについて

海事業界には様々なチャレンジがあります。船の省人化・自律航行や、熟練ノウハウの継承、地上からの船団遠隔管理最適化、故障予兆によるダウンタイム低減、GHG削減に省エネ、様々な新エネルギー推進システムに、発電システムの統合最適化。
さらに船舶設計へのAI活用や、海運サイバーセキュリティーなどもあり、これら全てにAIが有効手段と考えられ、世界の海事AI市場規模は2023年で8,500億円を超え、さらに急成長していると言われています。
自律航行や船舶の故障予兆など世界的に先進的な取り組みも日本で多く行われています。経験と実績が重要な業界では、AI技術を訝って受け入れない事がありますが、今の海事業界でのDX/AI導入は本気で、業界内の開発がどんどん進められています。日本の船舶業界は業界内での連携も進み、その動きの中でBEMACも重要なポジションを担っています。
私は前職で地上のプラントを設計し、その後プラント向けのAIを開発してきました。
設計に用いる化学工学的な計算結果をAIに学習させることで、よりよい運転条件を示し続けるAIや、最適な制御パラメータを示し続けるAIや、沢山の暗黙知を整理して制約条件を守りつつ最適化をし続けるAIなどを作ってきました。
工学的なAI開発における重要な要素の一つに、方程式で導ける様な工学的に正しい数値データを使う事があると思います。そこにそれまで培ってきた工学的業界知識やノウハウから因果関係を含むデータを十分に与える事が、精度の高い答えを導いてくれます。AIのアルゴリズムは、かつての工学が計算しきれなかった様々な条件の隙間や変数同士の繋がりを高次元に補ってくれるものだと考えます。
日本のAIの勝ち筋は、革新的アルゴリズムの発明や、莫大なデータと計算コストが必要な巨大AIではなく、様々な現場で先人が蓄積してくれた業界知識やノウハウに、アルゴリズムを応用して工夫して、各現場で使えるものを作りこめる所にあるのではと考えています。今迄、先人が苦労して積み上げてきた複雑な設計ノウハウや、プロジェクト遂行上の判断基準や、設計現場や製造現場での熟練の知見に、エンジニアリング的にAIを組み合わせる事で汎化性が出て、現実の現場で使えるAIができるのだと思います。

BEMACとしてのナレッジ

地上の大型プラントでは、数千のセンサーから毎秒データが蓄積されます。数十年操業しているプラントが複数あれば、巨大なデータの海ができるので、AIが学習するのに最適だと考えましたが、実際は足りない事がわかりました。そこで、現実データを補う様に、設計で使う各種シミュレータから、様々な状況を模擬したデータを大量に作り出してデータ同化すると、優れたAIを開発出来る事が分かりました。

BEMACも電気を中心とした深い分野知識とノウハウがあって、各種設計にシミュレーションを活用しているのでそのポテンシャルがあると考えています。日本の海事クラスターの優れた会社との連携も深く、様々な分野のエンジニアリング知見やトラブル解析知見,現場の熟練の知見を補い合える環境にも大きな可能性を感じます。

2025年のBEMAC全社スローガンに「AGI」が掲げられ、設計に限らず、すべての部門の社員が生成AIを当たり前のように活用できる様に、プロンプトコンテストや、ノーコードツールでアプリを開発しあうコンペが行われています。 東京データラボはシミュレーションと、AI関連の開発を行うための、大きすぎないチームの中に異なる専門知識を持つエンジニアが集まり、社内のDXを進める部署や、デジタルの事業を開発する部署、ITシステムを開発する部署と連携して、社内外の課題をAIで応えてゆきます。