はじめに
急速に進化するテクノロジーの中で、海事産業もまたDXの波にさらされています。その中でも特に注目されているのがAIの活用です。当社BEMACの次世代船舶支援ソリューション 「MaSSA-One」は、様々なAIの機能を実装し、これまで累計400隻に登る受注をいただき、海事DXの大海原を進んできました。BEMAC東京データラボ (以下、データラボ)では、AI技術を駆使し、より効率的で持続可能な海事ソリューションの実現に向けて邁進しています。
このブログでは、2024年度のデータラボ の取り組みを通して、AI技術がどのように海事産業を変革し、現場の課題を解決してきたのかを振り返ります。成功事例や課題、今後の展望についてもご紹介し、次なる挑戦への足がかりを探ります。それでは、2024年度の私たちの軌跡をぜひご覧ください。
※ 次世代船舶支援ソリューション 「MaSSA-One」について
自律運航船システムに向けた予兆検知システムの開発
日本財団と共同で実施している自律運航船プロジェクト「MEGURI2040」のDFFAS+プロジェクトの活動では 、機関系の自律化として、本船機関士の業務をサポートすることで、本船機関士1名による安全運航の継続を実現することを目標(機関部省人化システムコンセプト)として開発を進めているシステムの一つとして、予兆検知システムの開発を進めています。
予兆検知システムでは 、過去に予防保全アプリケーションで開発したBoostingを応用して開発したモデル を基に、さらに機関系の異常検知に最適化したモデルを開発しました。また異常検知に留めず、本船機関士の業務をサポートするという観点から、AIで検知した異常と近傍探索により関連するセンサーの変化の傾向と、ドメイン知識による原因推定ロジックを組み合わせて、原因を推定します。
※ 無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」について
https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/meguri2040
AI技術を活用した治水監視システムの開発
気候変動による水害リスクを減らすため、当社とグループ会社のFutureRays株式会社は今治市と共同で、AI技術を活用した治水監視システム(AI治水監視システム)を開発しました。本システムは、AIによる24時間の水位監視が可能で、台風時などの河川の異常を早期に検知します。
データラボでは、AI治水監視システムにおける水位予測AIの開発を担当。AI導入の方針検討からPoC、モデル精緻化、システム実装まで一貫して実施しました。モデル開発では、データサイエンティストが時系列モデルやディープラーニング系の予測モデルなど多様な手法を検証し、最適なモデルを構築しました。
今後もAI予測モデルの精度向上を目指し、継続的なデータ蓄積と分析を進め、より信頼性の高い監視システムの実現に貢献していきます。

※AI治水監視システムの挑戦の記事はこちら
MaSSA-Oneのさらなる活用に向けて
当社製品「MaSSA Insight ~WADATSUMI~(以降WADATSUMI)」はデータビューワー機能、ユーザー独自のアラーム設定機能(Knowledge Alarm)、発電機系統のトラブルシュート機能を兼ね備えた船上/陸上アプリケーションです。
データラボでは、お客様がWADATSUMIをより効果的に活用できるよう、使い方を熟知したメンバーがお客様とのディスカッションに参加し、業務と課題を詳しくお伺いしました。続いて、抽出した課題に応じた活用方法を検証し、提案を実施しました。
さらに、お客様の設定されたKnowledge Alarmを拝見し、より効果的に活用するための支援や効率的な操作方法の提案も実施しました。今後とも、お客様にご満足いただける最適なソリューションの提供に努めてまいります。
※「MaSSA Insight ~WADATSUMI~」について
https://www.massa-one.com/pdf/02_WADATSUMI.pdf
開発したISOの普及・啓蒙活動の実施
当社では、2012年から日本舶用工業会主催のスマートナビゲーションシステム研究会(以下、スマナビ研)に参加しており、スマナビ研が主導して開発を進め、2024年2月に発行されたISO16425/19847/19848の3つのISOのプロジェクトリーダーやメインのエディタとして携わってきました。これら三つのISOは、船内のデータを効率よく収集し活用するという点では、大きな役割を持つ規格であると考えています。
2024年度は、上記のISOの開発に加え、開発したISOを実際に舶用業界のステークホルダーに体験いただき、意見を集約することで、ISOの実用化支援と啓蒙活動を進めてきました。
その中で全てのISOにつながるキーワードとして「Ethernet」がありますが、活動を進めていく中でこのキーワードに関する知識の底上げの必要性を感じ、ISOの紹介を前にEthernetの基礎を勉強できる勉強会も実施してきました。来年度もさらに実務に携わる方々の知識の向上と、ISOの認知度を高めてまいります。
大学と連携した次世代の人材の育成
データラボは、東京海洋大学の海洋AIコンソーシアムプロジェクトに参加し、海事産業におけるAI人材やデータサイエンス人材を獲得すべくインターンシップにも力を入れています。
最近では東京海洋大学大学院、修士2年の方と、同じく東京海洋大学大学院の博士課程2年の方がインターンシップに参加し、実際に技術開発に関する業務を体験いただきました。
※東京海洋大学大学院、修士2年 高橋さんの体験談はこちら
今後もデータラボは海運業界に興味を持つ学生を積極的に支援するため、東京海洋大学をはじめ、様々な大学・研究機関との連携に取り組んでいきます。
社内DXの取り組み:生成AI活用推進プロジェクト
社外向けの製品開発だけでなく、社内DXの推進と生成AIを活用した業務改善も実施しました。社内のAI技術エキスパートとして技術支援や社内業務で活用するアプリケーションを開発。舶用始動機盤の設計業務において、過去10年分(始動器仕様で約10万件)の図面データを、フォーム検索と対話型LLM検索で容易に探せる仕組みを構築しました。 2024年度は、生成AI活用の第一歩として「過去図面検索アプリ」を開発。舶用始動機盤の設計業務において、過去10年分(始動器仕様で約10万件)の図面データを、フォーム検索と対話型LLM検索で容易に探せる仕組みを構築しました。
引き続き今年度も本アプリの他製品・他部署への展開を進め、社内のDXをさらに加速させていきます。
※BEMAC、設計図関連の作業時間7割減 生成AIで図面検索:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC079UI0X00C25A1000000/