2025.4.18

研究開発事例

AI技術を活用した治水監視システムの開発

AI技術で守る地域の安全 — AI治水監視システムの挑戦

 

近年、気候変動の影響により、記録的な短時間豪雨が全国各地で発生しています。当社の本社所在地である愛媛県今治市も例外ではなく、河川や排水路の急激な水位上昇が住民の安全を脅かす事例が見られています。例えば2023年8月23日の大雨では、鳥生地区の排水路において雨の降り始めからわずか25分で事前防災水位に達し、その後4分で浸水水位まで上昇しました。

図1. 8月23日の大雨による鳥生地域の浸水状況

そんな中、BEMACとグループ会社のFutureRaysは、今治市と協力し、AI技術を活用した治水監視システム(以下、「AI治水監視システム」)を開発しました。

このAI治水監視システムは、気象庁の降水量実績データ/予報データと治水施設の実績水位データを基に1時間後の水位を予測します。これにより、災害に対するリードタイムの確保を支援し、迅速かつ正確な初動対応に繋げていきます。

・今治市 記者会見(YouTubeリンク):https://www.youtube.com/watch?v=k2g30gqVvVA

・BEMAC(News&Topics):AI治水監視システムを今治市とBEMACが共同開発 « News&Topics

解決策:AI治水監視システムの概要

AI治水監視システムは、気象庁から入手可能な過去の降水量実績データと降水量予報データに加え、監視対象の治水施設で実測した実績水位データ を基に、1時間後の水位を予測します。シンプルなデータ構成でありながら、ディープラーニング系のアルゴリズムを活用し、予測の高精度化を実現しています。特に、降水量データと水位データの前処理や特徴量エンジニアリングに工夫を凝らしており、限られた情報から最大限の精度を引き出しています。

過去のデータに基づいてシステムの検証を実施したところ、事前に設定した注意水位を超過したケースは、全て予測することができました。一方で、実際には注意水位に達しなかった場合でも、注意水位の超過を予測するケースが散見されました。この原因は、予測が気象庁の降水量予測データに依存するため、気象庁の予報が外れた場合に、発生しやすくなることが分かりました。現在、これまでに収集したデータに基づきモデルのアップデートを行っており、精度の向上が図られています。

また、注意水位の超過を予測した場合に、登録された関係者へ自動的にSMS通知が送信される仕組みが実装されています。

図2. AI治水監視システムのイメージ

現地調査と関係者との協力

AI治水監視システムの開発にあたり、現地調査を行いました。実地試験の治水監視装置がある場所や、今後導入を予定している治水施設を中心に視察を行い、具体的には、今治市内の排水路とその周辺、川や排水路にある水門、そして排水のためのポンプ場など、現場の状況を詳細に把握しました。

現地調査では、水門開閉やポンプ操作の運用、降雨時の排水路や川に流れ込む水の挙動に、特に注目しました。現場での観察を通じて、AIのシステムに必要なデータや、リアルタイムの判断をサポートするための課題が明確になりました。

また、市の職員の方々との会議では、プロジェクトの目的を明確化するための議論が活発に行われました。特に、市の職員の方々が描くAIへの要望と、条件内で開発可能なAI技術とのギャップを埋めていくことが重要なテーマとなりました。また、市役所側からは、彼らの豊富な経験に基づいたドメイン知識を多くいただきました。経験理論と現実のデータが一致するケースもあれば、異なるケースもあり、そうした食い違いが生じた際には原因を追究し、データから納得のいく説明を提供できるよう尽力しました。

最後に

AI治水監視システム導入により、市の監視業務の負荷軽減に貢献できることを期待しています。また、本システムのAIのサポートにより、経験の差に左右されることなく適切な治水対策を講じることが可能となります。このように、技術の進化を市民の利益につなげることが私たちの願いです。

今後は、さらなるデータの蓄積によりAIモデルの精度向上を図るとともに、このシンプルで汎用性の高いシステムを他地域にも展開できるよう検討を進めていきます。

東京データラボでは、海事分野におけるデータ分析・AIソリューションの研究開発をメインに、社会に貢献できる幅広いチャレンジを続けています。今後も、よりよい課題解決策を提案いたします。