2023.6.1

インタビュー

船舶の電気推進を一気に押し上げるため、2027年の製品化達成が目標。

モータードライブ
船舶の電気推進を一気に押し上げるため、2027年の製品化達成が目標。

パワーエレクトロニクス
システムグループ・エキスパート

長野 和也

カーボンニュートラル実現に向けて未開拓のパワーエレクトロニクス事業推進を決意したBEMAC。長野は船舶の電気推進のカギとなるモータードライブ装置の開発リーダーを務めている。電気推進によるメリットをはじめ、プロジェクトの目的や船舶用品ならではの開発苦労、自社開発の意義を聞いた。

環境負荷低減、物流の効率向上、自動運転の普及。
モータードライブ装置の開発は
船舶業界のあらゆる問題解決の第一歩。

モータードライブ開発プロジェクトでは船舶の電気推進に取り組んでいます。具体的にはモータードライブ装置と呼ばれる、モーターの回転制御を好きなようにコントロールできる装置を開発中です。これは船が推進する際に必要なプロペラを回すのに関わる装置。プロペラを回すためには電動モーターも必要ですが、電動モーター単体では意味がありません。インバータを通じて必要なだけの電流を流し、電気の波の速さを変更することでプロペラの回転数が自在に調整できるようになって推進に結びつきます。船には波の揺れのような陸上にはない特有の環境変数やルールがあるため、それに適応したモータードライブ装置の開発をしているところです。

電気で進む船舶の推進装置には大電力が必要です。そのぶん装置も大きなものになってしまうのが問題でしたが、近年急激に進歩しているパワーエレクトロニクスと呼ばれる大電力を自由に操る技術を強化すれば、安価でコンパクトなシステムの開発が可能になります。また、電気推進の船はディーゼルエンジンの船に比べて制御の応答性が早く、 遠隔での制御・監視も容易なのが特徴です。電気推進が普及すれば、環境負荷低減や船舶の仕事効率向上のほか、自動運転の実現にも貢献します。こうした船舶業界が抱える問題解決に貢献するため、パワーエレクトロニクス事業の一環として、このプロジェクトが立ち上がりました。

開発力が上がるとメンテナンスの質も高まる。
自社開発はBEMACの価値向上に必要なこと。

船というものは、基本的に長く面倒を見ないといけないものです。一方で技術の進化などもありますので、30年間同じ製品をつくってくれるメーカーさんというのはそこまで多くありません。絶版商品というのはどんどん生まれています。

BEMACでは他社の絶版商品であっても、その度に代替の技術を駆使してメンテナンスすることで、お客さんからの要望に応えてきました。これからは、その価値をもっと上げてお客さんの力になりたい。そのためには自分たちの開発力を磨く必要があります。自社製品が増えれば、長い期間、責任を持って製品をマネジメントできる。船内に入れる製品の追加や組み合わせ提案など、ソリューションの幅も広がる。その結果、船内の電気設備すべてがBEMAC製の船が生まれる。これはパワエレプロジェクトの3チームの最終目標になっています。

困難が発生するのは想定内。
製品化まで地道に改良を続けるのが私たちの仕事。

私たちが開発しようとしているモータードライブ装置は、小型で安価なのはもはや当たり前。さらに価値の高いものにすべく、陸上用の装置以上の頑丈さやメンテナンスのしやすさ、冗長性も追求しています。

今、苦労しているのはメンテナンスのしやすさと冗長性の両立です。冗長性というのは、予備の設備やシステムを平常時から用意しておくこと。モータードライブ装置開発なら、航海中にトラブルが起きて機器が1つ壊れた場合でも、もう1つの機器が動作して、港に着くまでなんとか航海を続けられるような構造にする必要があります。また、私たちが駆けつけるまでの間、トラブルに対応するのは船員さんです。特別なスキルがあるとは限りませんので、製品そのものを扱いやすくしておくことも重要になります。

大きな1台のモーターの中に2つのモーターの機能が構成されている特殊な構造のモーターを制御するため単純な制御では上手く動作しないのが難しいところです。中でお互いに電気エネルギーが干渉し合ってうまく回らないなどのトラブルが発生するので、どうすればそれぞれがきちんと回転するか、安定的に回るか、急発信・急停止などにも対応できるかなど、クリアすべき内容がまだまだいくつもあります。

ただ、困難が発生するのは想定内です。会社として初めての取り組みですし、業界的にみても、こんなに船舶に特化している製品ってないはず。2027年には完成させて世の中に送り出すという目標に向けて改良を続けていくことが、私たちのやるべきことです。

もともと私は数Vの製品の基板設計しかやっていませんでした。会社が1000kW以上のシステム開発をやると宣言したときは「本当にできるの?」と半信半疑の状態でプロジェクトに参加した経緯があります。ですが、これまでを振り返れば、機構設計に詳しい人の知見や水冷装置のチャレンジによって小型化が進み、「やり始めたらなんとかなるもんだ」という実感を持っています。BEMACは70年以上も船舶業界に関わっています。いろいろな変遷があって今日がある。自分たちのプロジェクトも同じ。最後には形になると信じて地道に取り組んでいます。

長野 和也
長野 和也

パワーエレクトロニクス
システムグループ・エキスパート

自社製モータドライブシステム設計およびモータドライブ関連の制御基板HW設計・検証。モータドライブ装置の評価試験。

Other List
その他の記事