2023.6.1

インタビュー

世界的なGXの波に乗りパワエレ技術で大きな成長を目指す。

バッテリーマネージメントシステム ハイブリッド電源 モータードライブ
世界的なGXの波に乗りパワエレ技術で大きな成長を目指す。

パワーエレクトロニクス
システムグループ・グループ長

小松 優一

カーボンニュートラル実現に向けて未開拓のパワーエレクトロニクス事業推進を決意したBEMAC。技術経験者として2019年に入社後、3つのプロジェクトを立ち上げ、グループ長として電気推進装置の開発やパワーエレクトロニクス機器の大容量化推進の指揮を取る小松に、船舶業界のトレンドやミッション実現のために行っていることを語ってもらった。

「重油以外の新しいエネルギーを開発せよ」
この世界的なGXの波は成長のチャンス。

船舶業界には今、大きなチャンスが来ています。それがDXとGX。
DXはDigital Transformationの略です。船舶業界では無人操船や遠隔操作できる作業ロボットの開発など、操船をサポートする技術を発達させることでヒューマンエラーをなくし、安全性を向上させようという動きがあります。GXはGreen Transformationの略です。温室効果ガスを指すGHGを削減する取り組みのことで、船舶業界では燃料の大転換期を迎えています。

私が立ち上げた3つのプロジェクトでは主にGXに向けて積極的に取り組んでいます。船は一度出港したら止まれないし、止まってはいけない。パーツが壊れれば、船員さんが遭難など命の危機に晒されます。そのため、船舶業界はあらゆる面での安全性を確保しようと使い慣れている技術を重んじてしまう傾向があり「安全なら今のままがいい」という意識が強いです。

一方でCO2排出削減、燃費削減を無視することはできません。「日本は2050年までにGHG排出量を実質ゼロにする」という野心的な目標設定もあり、重油以外の新しいエネルギーの開発が早急に求められている状況です。そこで私たちのプロジェクトが立ち上がりました。今後、船舶業界ではリチウムイオン電池やモータードライブが活躍することになるはずです。

リチウムイオン電池は、CO2の排出量を低減した船舶の設計を可能にしてくれます。エンジンなどの燃費向上に貢献してくれるのです。モータードライブシステムは、船の電気推進に貢献します。電気推進システムは従来のディーゼルエンジンシステムと比較して、制御の応答性が早く、遠隔での制御・監視が可能です。船舶の自動運転システムにおいても有望で、人手不足の解消にも役立つとされています。

これらを船舶に搭載させるためには小型で堅牢で高効率であることが重要です。小型になれば、船に積み込める貨物量が増え、物流の効率上昇につながります。堅牢性が重要なのは、電池や電源の喪失というのが船の遭難といった大事故と直結しているから。安全な航海のためには、船の電気系統も頑丈なことが必須です。高効率は、乗り手側だけでなく作り手側にもメリットがあります。効率を1%でも向上できれば節電になり、製造コストが下げられるのです。いいものを安く提供できるため、船舶事業全体の安全性向上に繋がります。

こうした条件をクリアするための解決策の一つとして注目を浴びているのがパワーエレクトロニクスです。パワーエレクトロニクスというのは、電力を効率的に変換・制御する技術の総称。3つのプロジェクトはいずれも船の推進部分に関わるものですので、高電圧・大電流を扱うことになります。変換・制御の効率が上がれば、エネルギーロスは小さくなり、省エネにつながる。私はBEMAC社内にパワーエレクトロニクスの技術を根付かせ、3つのプロジェクトを進めるグループ長として日々業務にあたっています。

目指すは国内で唯一の船舶総合システムインテグレーター。未開拓のパワエレ分野にこそ可能性がある。

BEMACでは船内の電子機器の設計・製造・施工・保守・運用を手掛けています。推進部分と比較すると小さな容量の電気が対象で、電気系統の業界では“弱電”と呼ばれる分野です。同じ電気でも高電圧・大電流となると、規模も危険性も倍増します。これまでとはまったく違う技術が必要になるのです。BEMACにとって、このプロジェクトはまったく新しい取り組みとなっています。

世界的に見てもGXの動きは、今後どんどん加速していきます。日本でもGX絡みの補助金制度が整い始めてきました。パワーエレクトロニクスの分野に関しては、IGBT(※Insulated Gate Bipolor Transistor,絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ)やSiC(※炭化ケイ素)といった新しいパワー半導体デバイスが登場しています。だた、それらを使いこなしている企業というのはまだ多くありません。

またリチウムイオン電池やモータードライブの開発研究をしている企業もありますが、どちらの分野も強みとしながら、船舶に特化している企業はありません。BEMACには、もともと弱電領域の製品化やアフターサービスメンテナンスに関しては70年以上の実績があります。ここでパワーエレクトロニクスの知見や実績を獲得すれば、BEMACは日本の船舶業界でトップクラスの総合システムインテグレーターに進化します。技術力についても、先を行く海外メーカーとの差を縮められるチャンスなのです。今はまさに千載一遇の過渡期。一手を打たない理由はないと捉えています。

メンバーは自分のみ。社内知見ほぼなし。
今治の補助金申請から事業がスタート。

私は2019年にBEMACに入社しました。社長の小田から「強電のパワーエレクトロニクスを強化したい。プロジェクトを立ち上げたい」という内容をもらったのがきっかけです。以前は東芝と三菱電機の合弁会社で、潜水艦や海上自衛隊のイージス艦など、船舶の中でもちょっと特殊な船の電気推進、具体的にはスクリューをモーターインバータで回すようなシステムのエンジニアリングや回転機の開発に携わっていました。船舶の領域で、回転機などのパワーエレクトロニクスに関わっている人というのは、なかなか珍しかったのだと思います。先ほども出てきたように高電圧・大電流の製品を対象にしたパワーエレクトロニクスというのはBEMACにとって未知の領域です。人員がいない、知見がないところからのスタートでした。

入社して最初に取り組んだのが水冷技術のインバータを活用したモーター開発。大容量で小型なものをつくるため、周囲にいる技術者に話を持ちかけました。ですが、やっぱり未開拓の領域ですから、不安に思う人が多かったのを覚えています。私としては「実績が一つでもできれば、賛同してくれる人、仲間になってくれる人が増える」と思いました。

どうやったらプロジェクトが進むか、ということを考えた時に、まず着手したのが開発環境の準備です。海外のシミュレーションツールを購入して、ヒートシンクを設計して「このようにすれば冷却性能が上がりますというよ」という事業計画書を作成したら無事に補助金の申請が通ったんです。その結果、若手のメンバーが1人加わって、恒温槽で一緒に水浸しになりながら、シミュレーションと実体で、どうすれば冷却性能が変わるかという研究開発をすることなりました。

海外のメーカーも巻き込み
3年かけて初の試作モーターが完成。

そこからは外部の企業も巻き込んで開発を進めていきました。インバータユニットを作るのも大変だった。図面を書いて一部開発を委託して、盤やモーターの細かい仕様も決めていくのですがどんどん希望が増えていくんです。「盤は多段積みにしたい」とか「モーターは巻線の冗長性が高いものがいい。もし片側が壊れても、もう片方でカバーが効く仕様がいい」とか。かなり特殊な要望なので、なかなか承諾してくれる企業がありませんでした。
やっと話を聞いてくれたところも、いざ見積もりを出してもらうとかなりの金額で予算を超えてしまう。国内メーカーは思いつくところすべて当たったがNGという結果でした。
ここまで来ると逆に「こんなに仕様を追求しているのは日本で自分たちだけなんだ」と思うようになっていました。

最終的に候補に上がったのが、海外のあるメーカーです。当時は世界中でコロナの感染状況が酷くなっていて、特殊な依頼なのに現地に立ち会いに行けないという問題がありました。すべてオンラインで、コミュニケーションに苦戦しながら進めていって、ようやく完成したのが10ヶ月後です。社内の敷地の一部を借りて、仮設のモーター試験所をつくり、やっと試験に漕ぎ着けることができました。

モーターが回ったのを見たときは、もう嬉しかったですね。ものが動く瞬間というのはいつも心が弾みますが、このときは全くなにもない状況から、補助金の申請をしてお金を調達して、周りを納得させて、力になってくれる企業を探して、試験場も用意して、完成までの過程が長かったので、より特別な瞬間でした。
制御の改良など、真の意味での完成ではなかったのですが、それでも500kWぐらいの内航船であれば十分推進できるような馬力が出ていて、「これで次の段階に進めるぞ!」と自信がついたのを覚えています。入社してから約3年、2022年3月の出来事でした。

インタビュー
バッテリーマネージメントシステム ハイブリッド電源 モータードライブ
小松 優一
小松 優一

パワーエレクトロニクス
システムグループ・グループ長

試験棟建設施工調整、舶用以外の用途へのパワエレ事業拡大、産学官連携でのパワエレ・電動力応用製品の新規事業立上げ、ゼロエミッション船拡大に向けたターゲット案件のシステムエンジニアリングなどを実施。

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